基本に戻って「水際防衛」
■前回までのまとめと今回の話題
放射線被ばくによる健康被害の発生には、実は「活性酸素」が大変重要な役割を果たしています。
このため日常生活でも、「活性酸素」を増やさない注意や工夫が大切になって来ます。放射性物質を避ける以外に、毎日の食事や生活態度もキーポイントになるという事です。
夜更かしや喫煙、過度の飲酒など、従来から健康に良くないとされて来た習慣に注意して頂き、ビタミンCなどの抗酸化物質を摂り、また日々の食事・食材にも留意して頂くことなどです。
そして更に、放射性物質がいったん体内に入ってしまっても、これを体外に排出する手段はないか?ということで、「キレート作用」を持つ食材とその利用法について考えました。今までも、血中コレステロール値が高い時などに、「キレート作用」を持つ食材が推奨されて来ましたが、その考え方を放射性物質の除去に応用する訳です。
しかし注意しなけなければならないのは、「キレート作用」で排出できるのは、体組織に沈着する前の放射性物質で、血液に乗って流れている状態のものに限られるということです。「キレート作用」も万能ではありません。
放射性物質がいったん体内組織に食い込んでしまった後は、これをほじくりり出して体外排出する有効な手段が、今のところありません。例えばストロンチウムはカルシウムと化学的性質が似ていて、カルシウムと間違えられて骨に取り込まれてしまいますが、いったん骨に移行してしまったストロンチウムを効果的に取り除く方法はありません。ストロンチウム90の物理学的半減期は約29年で、生物学的半減期に至っては約50年と極めて体から出にくく、いったん沈着してしまったストロンチウム90は、ほとんど一生体内に抱えて過ごすものと考えるべきでしょう。
このため根本的に大切なのは、やはり体内に入った放射性物質が体組織に沈着するのをブロックし、そして、そもそも放射性物質を極力体内に入れないことです。
言ってみれば「水際防衛」です。
そこで今回は、
①放射性物質の組織沈着を阻害する
②放射性物質を体内に取り入れないこと
イ) 呼吸から
ロ) 食品から
の点について考えてみます。
■①放射性物質を体内に沈着させない。
原発の爆発直後に安定ヨウ素剤の服用が言われましたが、ヨウ素以外の放射性物質についても、これらを体組織に沈着させない仕組みは同様です。
人体から見分けがつかず有害な物質が細胞に取り入れられる危険がある場合、あらかじめ安全な方の物質で体内を満たしておけば、有害な物質が細胞などに取り込まれる確率を減らせる、という考え方です。
たとえば放射性ヨウ素は、これが体内に入る24時間前から直後の間に安定ヨウ素剤を適切に服用すれば、何もしない場合に比べ甲状腺への蓄積が90パーセント以上阻止されるとされます。
セシウムやストロンチウムなどについても、これほど顕著に効果を稼げるかはともかくとして、仕組み自体は同様に当てはまります。しかし、放射性ヨウ素の半減期が約8日間と比較的短いのに比べ、例えばセシウム137は半減期が30年と長寿命のため、対策や注意も長期にわたって必要になるという点が異なります。
以下では、各放射性物質についてその沈着を妨げる具体的な食材を列挙して見ました。
・放射性ヨウ素
安定ヨウ素で体内を飽和させておく。
昆布やワカメなどの海藻類
※放射性ヨウ素131は、現在環境中から殆ど消えています。しかし海藻類は別の意味で大切です。
・放射性セシウム
カリウムで体内を飽和させておく。
大豆、納豆、ナッツ類、ひじき、のりなどの海藻類、ほうれん草、パセリ、芋類、バナナ、リンゴ
など
・放射性ストロンチウム
カルシウムで体内を飽和させておく。
チーズ、骨ごと食べる魚(ししゃも等)、大豆、大豆製品、モロヘイヤ、小松菜、ゴマ、ひじき、カルシウム剤など
※マグネシウムとバランス良く摂取する必要があります。(カルシウム:マグネシウム = 2:1)
玄米、ひじき、ほうれん草、豆腐(にがり=マグネシウムを含む)、ナッツ類等とともに。
・プルトニウム
鉄で体内を飽和させる。
(動物性:吸収率が良い)レバー、赤身の肉、貝類(アサリ、しじみ、カキ)、卵、かつお、まぐろ、うなぎ
(植物性:吸収率が低い)海藻(ひじき等)、小松菜、ほうれん草、大豆、大豆製品(黄な粉、味噌)、枝豆、ゴマ、プルーン、など
※「飽和させる」とは言え、過剰に摂取すれば害もありますので、程々に考えてください。
鉄による胃腸障害や、カルシウムによる結石などです。
■②体内に取り入れない。
イ) 吸飲(呼吸による吸い込み)
吸飲による被ばく量は、内部被ばく全体の5%程度と言われることが多いようです。
この場合、内部被曝のうち残りの殆ど(約95%)は、食事から体内に入るものだと言われます。
(これについては諸説があり、吸飲と経口摂取がほぼ同じくらいに見積もる見解もあるようです。)
とはいえ、吸飲でも、風が強く舞い上がった時は、無風時にくらべ10倍程度多く内部被ばくすると確かめられています。この事からも、たかが吸飲と軽視しないほうが良いでしょう。
また、セシウムやストロンチウムは水溶性のため、肺に入ってから血管に吸収され代謝されて体外に排出される分もありますが、プルトニウムは不溶性のため多くが肺内部に定着してしまうと言われます。風で舞い上がった土ぼこりの中を無防備で居ることは、長期的な影響を考えると安全とは言えません。
(以下対策)
・放射性物質の再浮遊に注意 / 特に風が強い時
風の強い時は・・・
出来るだけ窓を開けたり換気扇を回したりしないよう注意する。
特に地面が乾燥している場合、洗濯物を外に干さない。
外に干した洗濯物を取り込む時は、いったんはたく。
また、庭の手入れなど屋外で作業するのは、雨の後など舞い上がりが少ないタイミングで。土をいじる時は周辺に水を撒いて舞い上がりが無いように配慮するなど。
・外出時はマスクを着用する
東大アイソトープ総合センターの発表によると、実験の結果、不織布マスクを着用すれば浮遊しているセシウムをほとんど吸い込まずに済み、吸飲による内部被曝量を大きく減らせると報告しています。これは、空気中に浮遊するセシウムが単体ではなく、埃などに吸着されて比較的大きな固まりとなって浮遊しているためと思われます。
・お部屋の掃除等もこまめに
※関東圏でも、家庭の掃除機の集塵パックからかなりの量の放射性物質が検出されていると報道されています。掃除を怠るということは、つまり、それらの放射性物質を含む埃を舞い上げ、日常的に吸い込んでいるということになります。マスクの場合と同じく、「埃(ほこり) = 放射性物質」と言えます。
もちろん、掃除の時はマスクを。
・おやすみは出来ればベッドで。
埃は床周辺に滞留するため。
ロ) 食事
繰り返し報道されている話題ですから、どなたもご存知の事が多いでしょうが、ここで再度まとめて見ます。
//調理での注意
・皮ごと調理しない。(放射性物質は、普通食べない部分に多く集まる。お米の籾殻やキャベツの外側の皮など)
・野菜はよく水で洗う。また細かく切って水に晒す。(セシウム、ストロンチウムは水に溶出する。)
・湯でこぼす。
・野菜の傷は、大きく切り取る。(放射性物質は傷んだ部分周辺に多く含まれる)
//食材
・食材として避けたほうが良いもの
a) 原発事故の影響を受けた地域の、野生のもの、家庭菜園で栽培したもの。
※野生のものは勿論、家庭菜園で栽培したものも、カリウムを多く施肥するなどの放射能対策が充分でない可能性があり、同種の作物でも報道等で周知されている含有量より多くの放射性物質を含んでいる可能性があります。
品目で特に注意すべきなのは、キノコ類、ベリー類、柑橘類、豆類など
その他、キレート作用(重金属の吸着作用)を持つとされる食品は、念のため安全かどうか確認する。キウィ、大根など
b) 影響を受けている海域の海産物で
海底性の魚類に注意。他の魚類に比べて高い放射線量が検出されています。
魚の骨に注意。(ストロンチウムが蓄積している可能性)
・海外産(輸入品)の食材を利用してみる。
缶詰、野菜、ジュースなど
※ただし、ヨーロッパ産は、チェルノブイリの影響があり、必ずしも安全とは言えません。またヨーロッパ産に限らず、外国産だからといって無条件に安全とは言えません。出来れば情報を集め吟味した上で。
・インターネット等で、震災前の食品を捜す。
ネットで、「震災前」のキーワードを使って検索してみますと、結構まだ残っているようです。
■本当のところは?
ここまで神経質になる必要が本当にあるのでしょうか?出来ればここまでしたくない・・と思うのが普通の感覚ではないでしょうか。
しかし、現在、将来のことを本当に約束出来る確立した見解は未だ無く、専門家の間でも意見の対立が見られます。
ICRP(国際放射線防護委員会)は、内部被ばくによる健康被害を外部被ばくのそれと比べて特に大きく見積もっていません。一方、ECRR(欧州放射線リスク委員会)は、内部被ばくによる健康被害を、外部被ばくのそれに比べて少なくとも数百倍に見積もっています。(*脚注1)
現在日本での報道は、一般にICRPの見解に沿ってなされているようです。
どちらの意見が真実なのか分からない・・・と言うよりまだ研究途上なのでしょうが、小さな子供さんの居るご家庭では、「気を付けるに越したことはない」という考えから、どうしてもECRRの見方に近くなると思います。
ECRRの見方からすれば、上記のような生活上の注意点も基本的なことに過ぎません。子供のころから身に付いた生活の常識も、残念ながら原発事故を契機に大きく切り替えなければならないのかも知れませんね。
(*脚注1)
例えば、ストロンチウム90を食物から体内に入れた場合の実効線量換算係数は、ICRP準拠では、0.028(μSv/Bq)ですが、ECRR準拠では、9(μSv/Bq)になります。300倍以上の開きとなっています。