春は、あらゆる命の息吹が大地から立ち昇るようです。至るところで木の芽が吹き、樹木は上へ向かって伸びようとします。
しかし一方で、桜の花びらは舞い散り、地面へと静かに降りて行きます。上昇と下降。時が止まったかのように地に静寂が広がる一瞬です。
漢方の宇宙観は循環です。すべて移ろいつつ循環して行きます。そして、そこには常に「バランス」があります。
「肝」は春の樹木
漢方では、「肝」は「木」に配当され、季節は「春」、感情は「怒り」となります。
ですから、この春の季節、木である「肝」も、芽を吹くようにその活動を活発にします。
また、「肝」の気は上へ昇ろうとしますが、これも「肝」が木の性質を持っている為です。ところで、この上昇する気とバランスを取るのが、肺や胃の下降する気です。例えば、深く吸い込んだ空気が肺の奥深く下がっていく様子をイメージしてみて下さい。
上昇と下降。このバランスによって人は気の平常を保っているのです。
頭に来るもの
「頭に来る」と言いますが、一体何が来るのでしょう。
「肝」は、ストレスや我慢が重なるとオーバーヒートし、気を過剰に上昇させてしまいます。この為、下降する気とのバランスが崩れ、本来下降すべき気までもが逆流して昇ってしまいます。つまり、怒りとは逆流した気が頭に来ることなのです。
他にも怒りの表現として「逆上する」とか「腹が立つ」とかがありますが、同じ理由からです。
この時、胃の気も逆流しますから、食欲も落ち「むかつき」ます。近頃はこれも怒りの表現となっているようです。
怒りからの解放
まず、下降する気を回復させる事が大切です。
これは腹式呼吸のことです。背筋を伸ばして深呼吸。また、笑う、歌うなども大いに結構です。
血の充実もまた大変重要です。これは、肝臓のオーバーヒートを冷やすのは血液だからです。
食事はレバー、豆類、緑黄色野菜、魚介類など、血液を増やすことを心がけて下さい。
自己実現のために
樹木が大空に向かってのびのびと成長するように、「肝」は束縛なく発展することを好みます。また、樹液が枝葉に行き渡るように、何事につけスムーズさを欲します。つまり怒りの裏にはこのような「肝」の本質があるという事です。
歴史上の人物では、織田信長が典型的です。彼は、関所の撤廃や街道整備など物流や交通の合理化に熱心で、スピードに大変こだわる人でした。
身分にとらわれない人材登用を行い、最新技術の導入に熱心でしたが、何よりも激しやすかったのです。彼は日本の中世を終わらせ、近世の扉を開いたと言われますが、「肝」無くして為し得なかった事です。
人生の春=青春期の方には、気のバランスをとりつつ「肝」の力を自己実現に役立てていただければと思います。
※文 : 堀 睦子
地元誌に連載した中から2015年4月号のものを抜粋しました。