1. 「体内除染」

放射能対策~毎日の食生活から

前回までは、人が放射線を浴びたことによって受ける被害を減らす方法について考えました。そこでは、日頃の食事の材料や、生活上の習慣・注意点などについて考えてみました。これらは、「放射線に耐える体づくり」とも言えるものです。
 
しかし今回は、被ばくの原因物質をできるだけ体内から除去する方法について考えてみます。放射線に真っ向から立ち向かい、その害を減らすよう様々な対策に力を入れるより、そもそも放射線の出元である放射性物質を遠ざけるほうが根源的な解決法と言えるでしょう。
「言うは易く行うは難し」ですが、原発事故後のこれからを生き抜くには、多面的にいろいろな対処法を活用したいものです。

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2. セシウムの体外排泄を促進する医薬品「ラディオガルダーゼ」

「ラディオガルダーゼ」(ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸鉄(Ⅲ)水和物)は、放射性セシウムで大量に内部被ばくした時に用いられるお薬で、平成22年12月に国内でも販売開始されました。
これは「放射性セシウム体内除去剤」と呼ばれ、過去の被ばく事故でも実際に人に使用され、相当なセシウム排出効果が認められました。というのも、そもそもこのお薬は核戦争を念頭に開発された薬だからです。
 
ところでこのお薬の実体は、実は絵の具にも使われている「プルシアンブルー」と呼ばれる色素です。この「プルシアンブルー」は、日本では「紺青」(コンジョウ)と呼ばれ、江戸時代の北斎の絵画にも用いられていますから、昨今新たに開発された化合物ではありません。
この色素の特色は、セシウムやそれと似た性質のカリウムを強力に吸着するというものです。
例えば現在福島県内では、土壌の除染にいろいろな手法が試されています。しかし、土壌を水で洗ってもなかなかセシウムを洗い流すことが出来ません。それはセシウムが土壌に強く吸着され離れないからです。ところが、この色素(プルシアンブルー)を汚染土壌に加え加熱攪拌などの処理をすると、ほぼ100%の放射性セシウムを取り除けることが分かって来ました。このように色素の「プルシアンブルー」はセシウムに対する強力な吸着剤と言えます。

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3. 「プルシアンブルー」が吸着するのは腸内にあるセシウムだけでは?

いいえ、全身に散らばったセシウムを回収できます。腸から吸収され血流に乗った放射性セシウムは、カリウムと勘違いされたまま体内を巡っています。しかしセシウムはその通り道でちょっとだけ腸の中に顔を出します。その腸の中に顔を出した瞬間に、プルシアンブルーがセシウムを捕まえ、そのまま便と一緒に体外に出してしまうのです。
このため、「ラディオガルダーゼ」というお薬自体は体内に殆ど吸収されませんが、それでも全身に分布する放射性セシウムの排出に役立ちます。
 
このように、さまざまな生体物質が胆汁に含まれる形でいったん十二指腸内に分泌され、再び小腸から吸収され体内(肝臓)に戻っていく循環を「腸肝循環」(ちょうかんじゅんかん)と呼びます。「ラディオガルダーゼ」が効く仕組みは、これを利用したうまい方法と言えます。
一方で、このように金属等を吸着する作用は「キレート作用」と呼ばれています。多くの場合、吸着された物質は体内への再吸収が阻害され、結果として体外に排泄されていきます。専門用語ですが、今後内部被ばく予防を考える時に要(かなめ)になる事柄ですので、そのまま紹介させていただきました。「キレート」とはギリシャ語で「カニのハサミ」を意味するそうで、言い得て妙ですね。

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4. ところでアップル(りんご)ペクチンも話題になっていますが?

海外の文献では、アップルペクチンも放射性物質の体外排泄に効果的だと報告されています。この効果は、現在日本で公式に認められている訳ではありません。しかし、キレート作用を持つ「ラディオガルダーゼ」に効果が認められる一方で、程度の差はあるものの、アップルペクチンにも同様のキレート作用が有ることが認められています。しかも、このようなキレート作用は、作用の強弱はあれ、他のいろいろな食品の成分にも認められます。
 
例えば、野菜などでは、大豆、グリンピースなどの豆類全般(味噌も)、パプリカ、ジャガイモ、ナス、ニンジン、大根、キャベツ等、また、海藻類や玄米もそうです。果物では、リンゴ、バナナ、(干し)ぶどう、洋ナシ、みかん(皮)、オレンジ(皮)、柿、いちご、西瓜などです。
また放射性ストロンチウムに対するキレート作用があるものとして、クエン酸、アルギン酸などの成分やキチン・キトサンが挙げられます。アルギン酸は直接人体での検証でもストロンチウムに対するかなりの防護作用があったと報告されています。クエン酸は果物(キウイ、グレープフルーツ、パイナップル、レモン、洋ナシ、イチゴなど)や梅、黒酢やリンゴ酢などに、アルギン酸は主に海藻類(昆布、ワカメ(メカブ)、ヒジキなど)に含まれます。キチン・キトサンはカニなどの甲殻類の殻から作られます。

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5. キレート作用のある食材をどのように活用したら良いのでしょう?

まず、体内の放射性物質を尿から排泄するにせよ、便に含ませて排泄するにせよ、体内の水の代謝が悪かったり、便秘が続いているようでしたら片手落ちになるでしょう。
例えばキレート作用の結果、便の中に比較的高濃度の放射能が含まれることになりますが、このような便が便秘により長時間大腸内にとどまれば、便と接する周囲組織は局所的に強く被ばくすることになります。却って危険なことにならないよう、キレート作用を期待する前に、あらかじめ便秘やむくみを解決して置くことが大切です。
基本的に冷たい水ものを多く飲むと、身体が冷え水分代謝が悪くなりむくみを起こしやすくなります。また、腸が冷えるとその動きが悪くなり便秘につながります。冷飲食を避け身体を冷やさず代謝を良くする生活習慣が基本として大切と言えるでしょう。
漢方では、このような代謝改善作用があるものに、肥満症の薬として有名な「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」があります。普通、便秘がちで、末端の代謝が悪く、皮下に脂肪の沈着等が認められる方に用いられます。

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6. 「キレート作用」の用い方にはご注意を!

キレート作用を持つ物質は、腸内でさまざまなミネラルを吸着し体外に排出してしまいます。このため玄米やペクチンなど「キレート作用」のあるものを重点的に摂取しますと、体内のミネラルのバランスが悪くなったり不足してしまう恐れがあると言われます。特にカリウムやカルシウム、そして鉄や亜鉛などのミネラル類は、多くの専門家が指摘する通り、不足すると内部被ばくを促進するとされ、不足がないよう充分注意するよう言われているものです。
例えば放射性セシウムの排泄を促そうと毎日ペクチン等をどんどん摂取したとします。するとキレート作用の行き過ぎで、体内のカリウムも不足ぎみになります。セシウムはカリウムと化学的性質が似ているため、人体はカリウムを確保しようとして、誤ってセシウムを体の中に留めてしまいます。この結果、セシウムの代謝が悪くなり、身体の各組織に沈着するようになります。
 
このように「キレート作用」の利点を充分に活かすには、「キレート作用」のある食品を摂りつつも、ミネラル不足にしない配慮が必須といえます。現にチェルノブイリ周辺で使われているアップルペクチンを含む錠剤も、同様の理由から、現地では長期連続使用を避けるよう指導されているとの事です。
では、カルシウムやカリウムなどが不足しないように、これらを豊富に含む食品をどんどん食べたり、または栄養補助食品を摂ったりするのはどうでしょうか?
 
もし食事と同時に補給するとしたら、これも良くありません。せっかく摂取した海藻などのキレート作用を邪魔することになるからです。ペクチンなどがセシウムを吸着しようとしても、その前に補給されたミネラル類が割って入ってしまうからです。小腸内に正常なミネラルがあふれ、肝心の放射性セシウムは見逃されてしまうことでしょう。せっかく補給したミネラルの多くも吸着されて捨てられてしまい、もったいないことです。
このため、ミネラル類の補給は、食事中や食直後ではなく、食後やや経ってから行うのがおすすめです。先ほどお話しました「腸肝循環」は、1回の食事で1回転しかしないのではなく、1回の食事分の消化に何回転もするといわれます。その為、多少の時間差をつけてミネラルを補給すれば、その間に食事中の「キレート作用」を持つ成分が、ある程度、放射性物質の吸着を進められるからです。
 
なお、成分にキレート作用の認められる食品は、一般に生育過程でも土壌などの放射性物質を吸い上げて吸着する率が高いとされますから、購入の際は汚染の心配がないものを選ぶ必要があります。
また海藻類は、概して放射能対策に優れた食品とされていますが、摂り過ぎは禁物です。海藻類に含まれるヨウ素の摂り過ぎは、不足と同様に甲状腺に悪影響が心配されるからです。伝えられている過去の経験からすれば、味噌汁の具にワカメを使ったり酢の物にするなど従来の食卓の感覚で良いと思われます。

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7. おわりに

低線量の長期間被ばくによる健康への影響は、チェルノブイリでの経験を経た現在でもはっきり分かっていません。このような状況で特にお子さんの居るご家庭では、たとえ神経質すぎると思われても出来る限りの対処をしたいと思われる方が多いことでしょう。
上記が、それぞれのご家庭で実践的な対策を考えられる際に多少なりともヒントとなれば幸いです。

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