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「後天の本」とは「脾胃」(ひい)のことを指します。
又、「脾胃は後天(こうてん)を主(つかさど)る」とも表現されます。
漢方医学用語に「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」という言葉がありますが、その「五臓」のひとつに「脾(ひ)」があり、「六腑」のひとつに「胃(い)」があります。両者をまとめて「脾胃」と呼び慣わします。
これは、その機能的な面からいうと、現代医学的には胃腸と脾臓あたりになります。
あるいは、具体的なイメージから離れ、食物の養分を体内に取り込む器官と考えても良いでしょう。
この「脾胃」は漢方医学では「後天の本」とも呼ばれ、「五臓六腑」の中でも抜きん出て、生きていく中で最も注意を払うべき臓腑と考えられています。
ではそれは何故なのか?また、どういう意味でそう云われるのか?
以下では、この点について考えてみたいと思います。
少々話が変わるようですが、「気」というのは、人間にとって大変大事なものです。
例えば、精神的にやる気や希望が持てない状態であれば、たとえ健康であっても、また、裕福で何でも手に入るとしても、それらは全く意味がないでしょう。
「欲望」ですら、人間にとっては貴重なものです。
これ等、「やる気」「希望」「欲望」などは、「気」の一形態であり、この「気」をなくして、人間は生きていく事が出来ません。
また、「気」はこれ以外にも、見えないところで、人体の各部の働きやバランス調整を行っています。
この大切な「気」について、漢方医学は、これを2種類に分類しています。
①先天の気 (せんてんのき=元気)
②後天の気 (こうてんのき=穀気)
先天の気は、「元気」とか「腎気(じんき)」とか、あるいは「命門の火(めいもんのか)」とも呼ばれることがあります。
まさに、いのちの灯し火です。
これは、人間が生まれる時、親から授かった火であり、、生まれた直後から減り続けます。
これが消えるということはすなわち「死」を意味します。また、この気は本人の努力で後天的に増やすことは出来ません。
出来得ることは、この浪費を防ぎ、有効に使い切ることです。
一方「後天の気」は、食べた食物から得る「気」のことです。このため「後天の気」は「先天の気」に関係なく、後天的な努力や工夫で、充分な量を得ることが出来ます。
しかし、逆に言えば、本人の不摂生次第で、いくらでも落ち込ませる事も可能なのです。
例えば、「やる気が出ない」「つまらない」「楽しくない」というのは、「先天の気」の多寡も関係あるかも知れません。しかし、人間の力ではどうしようもない事に苦情を言っても始まりません。
それより、もう一つの「後天の気」をより充実するにはどうしたら良いかを考えた方が、前向きで良い結果をもたらすでしょう。
このように、今与えられている人生をより良くしたいと思うなら、まず、この「後天の気」の充実を図ることだと言えます。
ところで、食べ物を消化して「後天の気」として取り込むのは、前述の通り「脾胃」(ひい)になります。
この意味で「脾胃は後天の本」と呼ばれ、健康の基本とされているのです。
しかし、ここではまた、この「脾胃」の機能が落ちればどういう事になるかについて、更に少々触れてみたいと思います。
多くの方が持つイメージでは、「胃腸機能が落ちれば、胃もたれや食欲不振が出る」というものかも知れません。
しかし、漢方医学では、「脾胃」が虚弱になれば、あらゆる病気へとつながっていくと考えます。
たとえば、「血」もまた「後天の気」から作られます。このため、「脾胃」が弱ると、段々に「血」も弱って来ます。
「血」が弱れば、人体の各組織や、臓器を充分に滋養する事が出来なくなり、その機能が不十分になって来ます。「脾胃」もまた、それらの臓器のひとつとして、ますます機能が落ちていきます。
このような悪循環の中で、胃腸とは直接関係のないところにも、さまざまな障害が発生して来ます。
胃腸が虚弱ということで、血色悪く、疲れやすくなるというのは、あたりまえの認識ですが、更に、うつ病やがんなど、多くの病気の遠因にもなるというのが漢方での認識なのです。
そして、そのような見方から漢方では「脾胃は後天の本」という原則を置いているのです。
では、この「脾」を健全に保つにはどうしたら良いのでしょうか?
漢方医学は、「陰陽説」という理論を基本に置いていますが、これは、「陰」(物質)と「陽」(作用・機能)が互いに転化するという考えです。
この理論では、物質が気化(作用・機能の発現)する時にはエネルギーを発生するというサイクルが基本単位としてあります。
例えば、木を燃やすと、気化する過程で、火を発生します。
このパターンは、人体の臓器についても同様に言えます。
炎こそ見えませんが、脾胃は正常に機能する過程で「燃えて」いるのです。
一方、その「火」を抑えれば、気化も抑制されてしまいます。
このため、漢方医学では、各臓器の働きを正常に発揮させるためには、その臓器が恒常性を維持出来る温度以下に冷やしてはならないという原則があります。
「脾胃」について見れば、冷たいものを飲んだり食べたりすることが問題となります。
冷蔵庫で冷やした食品を、そのまま「脾胃」に流し込み続ければ・・・
その結果は、上でお話した通りになっても少しもおかしくありません。
現代は、ストレスの多い社会ですから、そのストレスに負けない意欲を維持するために、まず、毎日の食事に注意を払ってみてはいかがでしょうか。
冷飲食を避け、良く噛んで食べ、食休みはしっかりと取る。
毎日のちょっとした注意が脾胃の力を高めて行きます。
『 養 生 訓 』 (貝原益軒著)より
「四時、老幼ともにあたたかなる物くらうべし。
殊に夏月は伏陰内に有り。
若く盛んなる人も、あたたかなる物くらうべし。生命を食すべからず。
冷水多く飲むべからず。
夏月、瓜菓生菜多く食い、冷麺をしばしば食し、冷水を多く飲めば、秋必ず瘧痢(ぎゃくり)を病む。
凡そ病は故なくしてはおこらず。かねてつつしむべし。」
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