1. 「紫雲膏」とは?

塗り薬の『紫雲膏』は、江戸時代の外科医、華岡青洲(はなおか せいしゅう 1760 - 1835)によって考案されたものです。
この薬は、生薬の「紫根」(シコン)および「当帰」(トウキ)等が配合され、怪我や皮膚病に幅広い薬効を有した為、その後広く用いられるようになりました。
現代でもこの薬は火傷(やけど)の薬として有名であり、「紫根」から来るその濃い紫色と、ゴマ油等の成分から来る独特の油臭から、ご存知の方も多いことと思います。
生薬成分のうち「紫根」は、皮下の毒素を解除し(解毒)又はそれを体表に排泄(透泄)するという作用を持ちます。このことは、「紫根」が現代医学的に見て抗菌、抗ウィルス作用を持つという事とも関連します。
更に「紫根」は皮下における血液の過剰な熱を冷ます(涼血)とともに、その流れを改善する(活血)作用を持ちます。
また、生薬成分のうち「当帰」も、血流を改善し、痛みを鎮め、皮下の気の巡りを改善する事により、肉芽形成を促進する作用を持ちます。
これ等の事から『紫雲膏』が、火傷(やけど)にはもってこいのお薬である事もうなづけます。

▲TOP

2. 火傷の治療薬として

大塚敬節先生(おおつかけいせつ ・ 日本の漢方医療に多くの功績を残した治療家)の著作、『漢方診療三十年』にも、火傷にたいする『紫雲膏』の効力が記されています。
以下はその抜粋です。
「(前略)ある日私の家の家政婦がマッチをすったところ、それが箱に燃え移った。ところが、その箱が徳用の大箱であったので、頭髪に燃え移り頭髪が燃えながら顔に垂れ下がってきた。そのため顔いっぱいの火傷になった。私はその時診察室にいたが、叫び声をききつけて、すぐ紫雲膏を塗り救逆湯を飲ませた。
すると、痛みが20分くらいで取れ、ぜんぜん痕がつかないできれいに治ってしまった。
その後のことであった。某家に往診して応接室で談話中、台所のほうでけたたましい女の声がした。何事が起こったのかと耳をそばだててみると、その家の娘さんが、テンプラをあげていて火傷をしたらしいのである。油が顔や手に飛び散って赤くなっている。
私は、往診かばんの中に入れてあった紫雲膏を取り出して火傷を受けた部分に塗っておいて帰った。
ところがこれは大変良く効いて、少しも痛まず痕にもならないで治ったといって感謝された。(後略)」(以上抜粋)
 
このように『紫雲膏』は優れた火傷の薬と言えます。

▲TOP

3. 火傷以外の用途も広く

ところで、『紫雲膏』の瓶には、定められた効能・効果として以下のように記載されています。
=> 「ひび・あかぎれ・しもやけ・魚の目・あせも・ただれ・外傷・火傷・痔核による疼痛、肛門裂傷、かぶれ」
 
例えば、ひびの場合には、割れた部位に『紫雲膏』を塗り込んで絆創膏を当てて置くだけです。
口の端のただれ(口角炎)や赤ちゃんのおむつかぶれなどにも紫雲膏は口中に入っても無害ですので安心です。
便秘などによる肛門裂傷には、副作用の心配なく手軽に用いる事が出来、速やかな改善が見られます。
ひどいあせもであっても、『紫雲膏』を塗れば即座にヒリヒリ感が改善されるとともに、半日程度でかなりの改善がみられます。
 
一方、上記のように『紫雲膏』は火傷に効果的なお薬ですから、ひどい日焼けをした場合にも用いられています。『紫雲膏』の基本的な作用を考えれば、このような応用は他にもさまざまに利くと言えます。
例えば、肉芽形成促進作用から褥創(床ずれ)に、又その保湿作用や血流改善作用から指掌角皮症などに、抗炎症作用や皮膚保護用から虫刺されといった具合に応用されます。
 
『紫雲膏』はこのように家庭の常備薬としても大変重宝し、長期常温保管しても傷まず、必要な時に手軽に用いる事が出来るものです。
 
『紫雲膏』はゴマ油等による独特の臭いにより敬遠される向きもありますが、上記のように、他では得難い利点も多々持っています。忘れる事なく使い続け、後世に引き継ぎたいものですね。

▲TOP